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次に、昇格基準を決めます。
昇格をどうするかは、職能資格制度を入れるかどうかは別にしても、人事の重要なポイントです。ここをしっかり設計し、運用することが肝心です。
職能資格制度でいう「昇格」とは、職能資格等級を上げることをいいます。
一方、「昇進」とは、役職ポストをあげることをいいます。
「どういう人を昇格させるか」という基準を決めたものが、「昇格基準」です。
昇格には、「卒業方式」と「入学方式」があります。
「卒業方式」とは、「いまやっている仕事が十分できるようになったら、上の等級にする」ということです。つまり、「現在の資格等級の要件をクリアすれば昇格する」というやり方です。
たとえば、資格等級4級の人が、4級の要件を完全にクリアしていれば5級に昇格させるということです。
これは、「4級の仕事が十分にできるのなら、5級の仕事もできるだろう」という「期待値」に基づいた昇格です。
一方、「入学方式」とは、上位等級の仕事ができるかどうかを判定した上で昇格を決めるという方法です。
卒業方式のメリットは、基準がすっきりしているという点にあります。4級の人は、当然4級の仕事をしているのですから、それを完全にこなしているかどうかを判定するのは、比較的容易です。
デメリットは、「4級の仕事を完璧にこなしていても、5級の仕事ができるかどうか、本当には分からない」ということです。
昇格させたものの、期待はずれだったという結果に終わる可能性があるわけです。
「それなら降格させて、元の等級に戻せばいい」
たしかにその通りです。
でも、降格というのはなかなかできないのが現実です。
特に、職能資格制度では、「降格なし」というのが一般的です。
もし降格がない場合、どうなるでしょうか。その資格等級にいる人が果たすべき役割を果たせない状態が、ずっと続いてしまいます。
これからは、降格制度もきちんと取り入れていくべきでしょう。
入学方式のメリットは、「昇格させたけど、期待はずれだった」ということが、入学方式にくらべると少ないということです。
入学方式を取り入れる場合、昇格させる前に上位等級の仕事を実際にやらせてみるのがベストです。
デメリットは、上位等級の仕事を割り当てるかどうかは、現場次第という点です。職場の状況、管理職のマネジメントに任されるわけです。
上位等級の仕事をこなす実力があるにもかかわらず、諸般の事情(仕事を担当させようにも、他の人がやっていて、担当させることができない、など)でその仕事をやっていなければ、昇格できないということになります。
そう考えると、昇格は、
――という運用をするのが良いと思います。
次に、昇格するには、人事評価がどの程度でなくてはならないかを決めます。
「4等級に昇格するには、直近の人事評価A以上」という具合です。
人事評価は直近の1回分だけを見ればよいのでしょうか?
こうすると、いい成績を常に取り続ける実力があるのかを判定するのが難しくなります。「たまたまうまくいった」ということが、現実にはあり得るからです。
しかし、あまり回数を多くしすぎて、過去の評価を引きずるのも問題です。
「たまたま不幸にして大きなミスをしてしまった」ということが、何年も前にあり、もう既にリカバリーしているにもかかわらず昇格できないということが起こります。
そう考えると、人事評価は直近2年分程度を見るのが妥当なところではないでしょうか。
また、下位等級は直近1年だけにして、上位等級は直近2年にするという手もあります。上位等級ほど、昇格要件が厳しいということです。
また、「どの程度の評価なら昇格させるのか」も決めます。
もし評価段階がS、A、B、C、Dの5段階だったとします。
その場合の、こんなパターンが考えられます。
1)直近2年の評価がA以上
2)直近2年で、1年目はB以上、2年目はA以上
3)直近2年の評価がA以上で、どちらか1年はS
5段階評価の場合、B評価が「標準」でしょうから、少なくともB以上を要件とすべきでしょう。
また、上位等級ほど、条件を厳しくするのが妥当です。
たとえば、下位等級はパターン1、中位等級はパターン2、上位等級はパターン3というやり方です。
3等級4年、4等級5年、というように、「昇格するまで、その等級に何年いるか」を昇格の条件にするということです。
これは、次の3つがあります。
「標準的な社員が、標準的に昇格した場合に、各資格等級にいる年数」です。
これを設定したからといって、この標準年数の通りに昇格を運用しなくてはいけないということではありません。
それなら、なぜこのようなものを設定するのでしょうか?
資格制度の設計、そしてそれに続く賃金制度の設計をする際、必ず必要になるのが「モデル賃金」です。
これは、「新卒で入社し、定年まで勤続する社員が、標準的に昇格、昇給した場合の年齢別の賃金」です。
このモデル賃金が、賃金設計の元ネタ、準拠指標になります。(これは職能給に限ったことではありません)。
このモデル賃金設計の、基礎になるのが、この「標準年数」です。
つまり、制度設計する上で必ず必要になる、「指標」ということです。
「2:6:2の法則」というのがあります。
複数の人がいると、その中の、優秀な人:普通の人:できない人の比率は2:6:2になるというものです。科学的な根拠はありませんが、経験的にそうなるということですね。
つまり、会社いる人の6割は「普通の人」ということです。
成果主義など、人事制度をめぐる最近の論議は、「ハイ・パフォーマーをどう処遇するか」に焦点が行きがちです。しかし、大事なのは、この「普通の人々」をどうモチベートし、どう処遇するかではないでしょうか。
その点で、標準年数、モデル賃金をどうするかは、大切なポイントです。
話が少し横にそれました。
標準年数を設定し、標準的な社員の昇格パターンを設定した上で、ハイ・パフォーマー、ロー・パフォーマーをどうするかを決めていくということです。
どんなに優秀な社員でも、最低○○年は、その等級に滞留させるということを設定します。
絶対に必要なわけではありません。これをどうするかは、会社の人事政策次第です。
優秀な人はどんどん昇格させ、逆転人事も当たり前という考えを取るなら、最短年数は設定しないか、設定しても1年〜2年程度にします。
逆に、あまり差をつけたくなければ、最短年数を長めに取ります。(と言っても、標準年数よりは短くします。当然ですが)。これをやると、その分年功的になります。
どんなに評価が悪くても、ある程度の年数、同じ等級に滞留していたら昇格させるということです。
「自動昇格年数」とも言います。
もし1等級からスタートして、どの等級にもすべて最長年数滞留した場合でも、60歳時点で4等級までは昇格するようになっていたとします。その場合、4等級が、「最低昇格等級」ということになります。
これも、制度上必ず必要というものではありません。
設定するとしても、下位等級だけでよいと思います。
人事評価、昇格必要年数などの条件を満たせば、自動的に昇格となるのでしょうか。
会社によっていろいろな考え方があると思いますが、条件を満たした社員を対象に、別途、昇格審査を実施するのが一般的です。昇格審査をパスした社員だけが昇格するというわけです。
つまり、人事評価や昇格必要年数は、「昇格の最低条件」ということになります。
なぜ改めて、そういう手続きを踏むのか。
それは、人事評価が一定レベル以上だからといって、昇格させていいとは限らないからです。
なぜか。
それは、人事評価は、あくまでも、「過去1年(あるいは半年)の仕事のできぐあい、能力の発揮度合い」を見るものなのに対し、昇格は、「この人は上位等級に上がっても、その期待に応えることができるか」を判定するものだからです。
昇格が卒業方式の場合、「本当に今の等級を卒業できるレベルか」を判定する必要があります。
昇格が入学方式の場合、「上位等級でもやっていけるレベルか」を判定する必要があります。
特に、一般社員層から管理職層に上がるところは、ハードルを高くする方がよいでしょう。なぜならここは、求める能力レベルが明らかに異なるからです。
人材アセスメント、面接、筆記試験など、特別な審査をするのがベターでしょう。
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