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自己申告制度というのは、将来希望などを所定の自己申告シートに記入し、それを元に上司と面談する制度です。
面談すること自体にも意味がありますが、さらに、本人へのフィードバックがある方がベターです。
また、
・人事制度などへの要望を集約して制度作りの参考にする。
・モラールサーベイとして活用する
――など、さまざまな活用方法があります。
自己申告制度の良さは、それほど大がかりな「しかけ」がなくても実施できる点です。
比較的、とっかかり易い制度と言っていいでしょう。
でも、安易な導入は禁物です。運用を誤ると、制度が不満の温床になりかねません。
典型的な不満は、「人事異動の希望を出しているのに、全然実現しない」というものです。
現実に、人事異動がすべて社員の希望通りになるということはあり得ません。
それでも、そのような幻想を社員が抱いてしまうのは、何のために制度を導入するのかという目的が曖昧だったり、説明が不十分だったりするためです。
それでは、自己申告制度の目的は何か?
メインは、キャリア開発の支援です。
サブとして、人事制度作りの参考、モラールサーベイなどが上げられます。
自己申告制度とキャリア開発が、どうむすびつくのか?
それは、この制度を通して1人1人が自分の将来展望、それを実現するためにするべきことを考えるからです。
ただ単に、人事異動の希望を聞くのではありません。
そして、面談を通じて上司と方向性をすり合わせ、支援して欲しいことなどを話し合うわけです。
上司は、部下が何を考え、どんな展望・希望を持っているのかを知ることにより、育成計画を考えます。
この一連のプロセスを通して、人材育成とキャリア開発を進めていこうというわけです。
自己申告制度は、社員が自己申告シートに記入するところから始まります。
シートの中身をどうするか、つまり何を申告してもらうかが、制度設計の第一歩となります。
「何を」申告してもらうか、これは「自己申告制度を何のために実施するのか」と表裏の関係にあります。
自己申告制度の目的は、社員のキャリア開発支援にあります。
社員のキャリア開発を支援・推進するため、
――この3点を本人が考え、上司に申告するわけです。
なぜそんなことをするのか?
単刀直入に言うと、「稼ぐ組織」を作るためです。
ただし、そこには「永続的に」という接頭語がつきます。
去年は大いに稼いだが今年は鳴かず飛ばずでは、お話になりません。
そのためには、社員が本当に仕事に打ち込める会社である必要があります。
そして、その最大のポイントは、「この会社にいれば自分はキャリア開発できる」と社員が感じることではないでしょうか。
「稼ぐ」ということと、社員を大事にすることは、相反するのではないかと思う人もいるかもしれません。
しかし、私はそうは思いません。
会社が業績を上げることと、社員が幸せになることは、正比例の関係にあるはずです。
その「正比例の関係」をつくるのが、キャリア開発の仕組みなのです。
少し横道にそれましたが…
それではまず、「いま、どんな状態にあるか」の中身を見ていきましょう。
これまでを振り返り、
――こうしたことをシートに書いてもらいます。
「どんな仕事をしていたか」については、過去1年ぐらいを振り返るのがいいでしょう。
その中で、特に力を入れた仕事を記入させるようにします。
ポイントは、現時点の能力・スキルにどう結びついているかです。
1年間の仕事をすべて網羅する必要はありません。
「現在の自分につながる、最も重要(と思われる)仕事」を記入するようにします。
記入は具体的なものを求めましょう。
単に「営業活動」とか「採用業務」としているだけではなく、その人が何を考え、どう行動し、結果はどうだったかを書かせます。
たとえば、
「A顧客に、B製品をカスタマイズして売り込むことに成功した。
顧客のニーズを日常の営業活動の中でつかんだ結果、既存製品をそのまま持っていってもダメだと分かった。
そのため、製品カスタマイズを提案、同時に技術部門と調整した。当初、技術部門からカスタマイズは難しいと言われたが、打ち合わせを繰り返す中で、別のパッケージ商品を組み合わせれば可能だということが分かり、実現にこぎつけた。顧客からは高く評価され、受注に結びついた」
――といった具合です。
そのうえで、それを通じて何が身についたかを記入させます。
「社内各部署との折衝を通じて、交渉力が身についた」
「○○の知識が身についた」
これも、できるだけ具体的に記入させます。
ここが、このパートのポイントとなります。
仕事を振り返ると、反省点が必ずあるものです。
「もっと粘り強さが必要だった」
「知識がまだ不十分だった」
いろいろと出てくると思います。ここが、将来の能力開発ポイントのひとつになってくるのです。
「現在の姿」のポイントは、「ありのままの姿を正直に」です。
このようなことを始めると、人の反応は次の3パターンに分かれます。
このあたり、面談を通じて指導していくことになりますが、それ以前に、自己申告制度の目的、ねらいをきちんと伝えていくことが肝心です。
◆シートサンプル
誰にも、自分の将来像があると思います。
「そんなの無いよ」という人、「何だろうなぁ」と唸ってしまう人もいますが、それは意識化していないか、具体化していないというだけではないでしょうか。
自己申告制度では、自分の将来像を意識化する点に意義があるのです。
また、「将来」と一言でいっても、その範囲はさまざまです。
半年〜1年ぐらいの短期から、それを超え、5年〜10年にもわたる長期までいろいろあります。
将来像も、短期のものであれば具体的で、長期のものであれば抽象的で「夢」に近いものになるでしょう。
自己申告制度で将来像を書かせる場合、「それをいつ頃実現したいと思っているのか」という時期を明記させる必要があります。
そして、もしそれが長期のものであれば、「その実現のために当面何をするか」ということも書かせるようにしましょう。
「将来何をしたいか」というのは、「異動希望」として出てくることが多いと思います。
異動希望がある場合、具体的な部署名を書かせるようにします。
部署がない場合は、プロジェクト名などを書かせます。
そのうえで、異動した先で何をしたいのかを、具体的に書かせましょう。
それによって、
・異動先で何を「自己実現」したいのか。
・異動先で会社にどんな貢献ができるのか。
―が見えてきます。
次に必要なのは、「なぜ異動したいのか」
ここでよく出てくるのは、「今の部署から出たい」という「逃避型」。
「そんなのは異動希望として認められない」という意見もあります。
しかし、ちょっと待ってください。
頭ごなしに否定しないようにしましょう。
むしろ、職場の問題や、会社の問題をつかむ好機だと考える方がいいです。
また、本人のモラールダウン、さらにはメンタルな問題を解決できるかもしれません。
(この問題は、面談のパートで、改めて取り上げます)
◆シートサンプル
キャリア開発との関係で自己申告制度を考えると、この部分はハイライトと言えるでしょう。
大切なのは、「将来像」との脈絡です。
「近い将来、これまでの営業経験を活かしてマーケティング調査の仕事をしたい」と書いてあるにもかかわらず、マーケティングや宣伝などに関することが何も書かれてなく、なぜか「スペイン語の習得」と書いてある…これだと、「この人は何をしたいのだろう」となってしまいます。
別に、スペイン語の習得がいけないと言うつもりはありませんが…
ただ、将来像と能力開発の関係を、あまり限定的に考えない方がいいでしょう。
ある程度の「幅」は認めるべきです。
「実務に直接関係したものを書かせるようにすべき」という意見もあります。
しかし、自己申告制度の一番の目的は「キャリア開発」。
もちろん、担当業務をこなすために必要な実務知識を、この制度を利用して洗いなおすということも、「あり」です。
ただ、それに限定してはなりません。
「将来像」を申告させているわけですから。
あわせて、キャリア開発のために、会社にどんな支援をして欲しいかを書いてもらうようにしましょう。
この中から、会社のキャリア開発支援策をつくっていくうえで、参考になる意見が見つかることもよくあります。
自己申告制度の第一の目的はキャリア開発ですが、そこだけにとどまる必要はありません。
従業員のモラール・サーベイ、会社の研修制度に関するアンケート調査など、多重活用も考えてみてもいいと思います。
面談のテクニックは、教科書にいろいろと書いてあります。
・対面ではなく、斜めに座ったほうが相手はリラックスする。
・最初の5分間は「アイスブレーク」。世間話などで相手の気持ちをほぐす。
などなど。
あまり難しく考えないほうがいいでしょう。
日ごろのコミュニケーションの一環ととらえるぐらいで、ちょうどいいのではないかと思います。
ただ、次の2点だけ、心がけてください。
・基本的に「聞き役」。自分の考えを押しつける場ではない。
・日常業務の話は最低限に。
それでは、自己申告−キャリア開発の観点で、面談のポイントをお話しましょう。
まず、曖昧な部分をできるだけ明確にするようにしましょう。
誰もが、将来への明確なイメージをもっているとは限りません。むしろ、漠然としていることのほうが多いでしょう。
面談で、そこができるだけ具体的になるようにもっていきます。
つまり…
・何をしたいのか
・いつまでにしたいのか
この2つが具体的になるようにするのです。
自己申告シートを書いているときは漠然としていたものが、面談で話しているうちに明確になっていったということもよくあります。
これができれば、面談は上首尾と言っていいでしょう。
「将来は○○分野の専門家になりたいのですが…」
「なるほど。○○分野と言っても広いよね。特にどこに関心をもっているの?」
「そうですね…○○分野の、△△ですね」
「そうか。それで、専門家になって何をするのかな?」
「やはり社内の技術開発のアドバイスをしたり、後輩を育成したりといったことをやりたいですね」
「アドバイスというのは?」
「たとえば、自分で社内にホームページを立ち上げて、自分のノウハウを公開したり、質問を受けたり、といったことです。まだ、それができるレベルではありませんが」
こんな風に、「何をしたいか」を次々と引き出すようにしていきましょう。
ここで、ぜひ確認しておきたいのは、次の2点です。
1)希望が実現した場合、本人のキャリアはどうなるのか
2)希望が実現しなかった場合、どうするのか
1)希望が実現した場合、本人のキャリアはどうなるのか
もし実現したら、その人はどうステップアップするのか、その先の展開はどうなるのかを、一緒に考え、共有しましょう。
また、その結果、会社への貢献はどうなるのかも見通してみましょう。
たとえば…
今は○○分野の業務に携わっているが、△△の業務も経験したい→専門性に幅ができる→将来、会社の技術開発全体のディレクションができるようになる
…こんな具合です。
2)希望が実現しなかった場合、どうするのか
本人の希望が実現するとは限りません。
この点をよく理解してもらいましょう。
その上で、もし実現しなかった場合どうするかを、よく話し合いましょう。
今の部署の、今の仕事でどうキャリアアップしていくか、きちんと共有することが大事です。
キャリア開発を実現するために、何を身につけたいか、身につける必要があるかを話し合います。
以前も書きましたが、実務知識にこだわらないことです。
将来展望とどうむすびつくのかを、しっかりと話し合いましょう。
その上で、具体的な手段を確認します。
また、上司として、会社として支援できることは何かを考え、確認します。
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